エヴァ『残酷な天使のテーゼ』の岡田斗司夫による解説まとめ
この記事はこちらを参考に新世紀エヴァンゲリオンのOP『残酷な天使のテーゼ』について、岡田斗司夫氏による解説をまとめた記事である。
- ①シンジの回転
- ②連続5コマの配置
- ③切り替わる4人の人物
- ④サビの演出
①シンジの回転
「青い風が今~」のところでシンジが回転するシーンが有る。
エヴァのキャラクターデザインは貞本義行氏が携わっているが、貞本氏のキャラクターデザインは、岡田氏によれば「立体化できるはずなのに悔しい」ものなのだという。
貞本氏の2次元のデザインのシンジの完成度が高いため、3次元的(立体的)にシンジの顔をかっこいいシーンで回転させようとするときに、少しずつ2次元的に顔の位置を修正しており、『2次元なのに3次元に見える作画の奇跡』が起きているという。
②連続5コマの配置
「運命さえまだ知らない、いたいけな瞳~」のところ(タン、タンタンタンタン)で連続して5カットシーンが切り替わる。
このシーンは、白っぽい絵と濃いものが交互に展開され、2コマの動きがない絵の不気味さが際立つ。
エントリープラグ挿入シーン
1コマ目はエントリープラグが挿入されるシーンだがここは作画が難しいという。
流れとしては
- クランプコア(コアクランプ)が開放される前の状態
- クランプコアが開放される
- エントリープラグがゆっくり回転しながらねじり込まれていく
という表現をしており、CGではなく手作業の作画で作り込まれているという。
ちなみにクランプコアとは、ロケットが上昇しないように押さえつけるグリップのことである。
2コマ目はエントリープラグインテリアが映る。
これはシンジが座る後ろの部分であり、何かが封じ込められているカバーが掛かっている。
ここで明らかな不気味さが演出されているという。
内部電源に切り替わるシーン
3コマ目はエヴァの電源が外部から内部電源に切り替わるシーンである。
OPではわずか1秒足らずのシーンだが、はじめは外部電源の状態(左上)、外部と内部電源の療法が使用され、内部電源の表示が「88888」状態(右上)、内部電源に代わりカウントダウンの5分となり(左下)、カウントダウンが動き出す(右下)という流れになっている。
また、この際それぞれの画像の下の方にある赤い表示のステータスも変化しており、「NOMAL」⇒「表示なし」⇒「RACING」と変化しているが、これは心臓の鼓動を表しているという。
なおRACINGは心臓の鼓動が早まっている状態のこと。
岡田氏によれば、飛行機でも離陸時に外部電源から内部電源に切り替わる際室内の電気が一瞬切れ、電圧が下がって再起動するということがあるが、あの流れをこのOPでも再現しているという。
電源を切り替えたことで、中に乗っている人間(シンジ)の心拍数が上昇しているということを表現しておりウマい見せ方になっている。
レバー操作シーン
4コマ目はシンジの手元だけが移りレバーを操作するシーンである。
このシーンはシンジがレバーを前にスライドさせているところだが、岡田氏によれば「アニメメカデザイン史上の革命」だという。
これまでのロボットアニメの操作レバーは、バイクや飛行機などの現実存在するものがモチーフとなっているものが多い中で、ここに登場するレバーは類似するものが存在しないというのがその理由だそう。
イメージソースはガソリンの給油の部品に近いが、シンプルなデザインで他には見られないというところで革命的と言えるそうだ。
計器パネル(パワーゲージ)
5コマ目はエヴァのパワーゲージである。
下から上に向かって(赤⇒緑)で電源が入っていない状態からパワーが上がっている様子がわかる。
なおこれは単なる電源ではなく神経接続(シンクロ率)を表しているものだそうである。
このシーンの特徴としてはパースが正面ではなく、かなり斜めから撮られているということであり、これは「実相寺アングル」を意識したものだという。
実相寺昭雄という監督が用いた演出技法で、庵野秀明氏はこのエヴァだけでなく、シン・エヴァやシン・ウルトラマンでもこの演出技法を用いている。
実相寺アングルは実写で用いられていたものだが、これをアニメで効果的に用いるために斜めからのパースで用いるという結論に至ったそうである。
ちなみにこれは岡田斗司夫氏や庵野秀明氏が制作に携わった「トップをねらえ!(1988年)」の6話でもヱルトリウム内部でのシーンで試験的に取り入れた技法とのことで、1995年公開のエヴァでも参考にされた可能性は高い様子。
③切り替わる4人の人物
「だけどいつか気づくでしょうその背中には~」の四拍子のシーンでゲンドウ(左上)、ミサト、リツコ、レイ(右下)の4人の上半身アップに切り替わる。
ここでは4人の目の位置がほとんど同じように作画されており、一人の人間のように見せており、背景も黒⇒白の明るい色に少しずつ変化させている。
またそれぞれの口の端を見てみると少しずつ口角が下がっており、笑い顔(ゲンドウ・ミサト)⇒真面目な顔(リツコ)⇒悲しい顔(レイ)に変化しているという。
これは音階に合わせて表情を下げているというだけなく、レイの表情に最終的に注目させ曲調を抑える演出になっているという。
④サビの演出
エヴァの手足のインパクト
「残酷な天使のテーゼ~」の部分。
紫のエヴァの手に赤い血がつき、黒背景に白文字、紫の足に赤い血、黒背景に白文字という色彩の濃いシーンだが、これにより手足に注目しやすくなる。
岡田氏によればこの早いカットのシーンは『キイハンター(1968年公開のテレビ映画)』のOPを意識したものだという。
またエヴァの手足自体も、手が一瞬痙攣し、足もカメラが左から右へ少しつづ流れていくことで躍動感を出しインパクトに残りやすい工夫がされているという。
このシーン後、エヴァの全身が回転しながら映し出されるが、これは宇宙戦艦ヤマトを意識しているとのこと。
ヤマトが艦長室からヤマト全体が映し出される一連の流れを彷彿とさせる作りになっているという。
メロディアスな歌詞に合わせて、カメラも大きく動かすことで、印象を強く見ているものに与えやすくなる。
月と綾波レイとガンダム
「天使のテーゼ~」のところで巨大な月を背景に綾波レイが映るシーン。
古代ギリシャの時代から太陽が生命を意味していたが、月はその対局である「死」を意味し、レイが死んでしまうという暗示を表している。
このシーンの元ネタは「機動戦士ガンダム第14話『時間よ、とまれ』」での画像に上げたマチルダのシーンとのこと。
もちろんこの後マチルダも戦死してしまう。
第三東京とネルフ
「窓辺から~」のところのシーンで「TOKYO‐3」という文字が出るが、この元ネタはSF映画「さよならジュピター」に登場する地球-木星間を航行する超長距離貨客宇宙船。
TOKYOⅢ 資料として。#さよならジュピター #TOKYOⅢ #TOKYO-3 #スタジオぬえ pic.twitter.com/GcThFIKI4r
— オオムの血 (@oomu_no_chi) June 7, 2018
ネルフ司令部
「やがてとびたつ~」のところ。
ネルフの冬月、青葉、日向(ひゅうが)、伊吹マヤ等が映る中一瞬ネルフ司令部が映る。
戦艦のブリッジのようなこの司令室の元ネタは、おそらく銀河英雄伝説(1988年公開の石黒版アニメ)の自由惑星同盟側の戦艦のブリッジだという。
ちなみ岡田氏もこのアイデアを参考に、トップをねらえ!の3話に登場する戦艦エクセリオンのブリッジの造形に用いたそうである。
エヴァの正体
「ほとばしる熱いパトスで~」のところ。
こちらに近づいてくるエヴァの目の中を映し、エヴァが単なる機械のロボットではないということ(エヴァ自体は仮面であり素顔ではない)を表している。
「思い出をうらぎる~」のところ。
素顔の状態(生物的な)のエヴァの姿が映る。
岡田氏いわくSF好きならエヴァの1話を見ただけで自動的に「(シンジの)母親=エヴァ」の構図が浮かぶらしい。
そしてエヴァ=母親=母性の良いところ(子供を護る)、悪いところ(すべてを取り込もうとする)が作品の展開に影響しているそうである。
この装甲の下に素顔があるというアイデアは岡田斗司夫によると、永野護の『ファイブスター物語』に登場するジュノーンがエヴァにも影響を与えているとのこと。
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まとめ
エヴァンゲリオンの監督とも交流がある、岡田斗司夫氏による解説はとても興味深く、なぜ長い時を経て、「残酷な天使のテーゼ」が名曲として名を残し続けているかの秘密がわかるかもしれない。